吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

バーフバリ 伝説誕生

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 出たっ! B級超大作!! 興奮のるつぼと爆笑の嵐。歌って踊って大戦争
 なんでこれを観たかというと、現在劇場上映中の続編の完全版を観たいから、その予習のため。思いっきりCGとワイヤーアクションを使い、スローモーションを多用してあり得ない映像体験を提供してくれる、これぞ娯楽映画の極み。見終わった後によい子は「バーフバリ! バーフバリ!」と思わず叫んでしまうであらう。
 物語はインド神話マハーバーラタ」からキャラクターを引き継いで創造されたという。昔々のある王国の王位継承をめぐる争いと、蛮族との戦いがド派手に描かれる。主人公のバーフバリは祖父・父・息子と3代にわたってプラバースというマッチョ役者が演じている。それはもう50年分の物語なので、とても一話では終わりません。前後編に分かれた本作の前編では歌って踊るシーンがあるなどそれなりに見せ場があるとはいえ、前半はかなり地味な展開。と思いきや、後半は怒涛の進撃。
 王の息子でありながら赤ん坊の時に王宮を追われ、川で拾われたバーフバリは自らの出自を知らずにすくすくと成長する。いやもう、すくすくどころか育ちすぎでしょ! 毎日のように滝登りを繰り返して筋肉トレーニングに余念がない若者はいったい普段の仕事は何なのかと不思議になるぐらいだ。

 で、とうとう断崖絶壁の滝の上に上り詰めた彼は、理想の美女に出会ってたちまち恋に落ち、もちろん歌って踊るのである。その美女が反体制派の戦士と知るや、バーフバリも一緒に戦うことになる。お主には思想や信念がないのかね、惚れた相手が戦士だからってたちまち一緒に戦争するなんてちょっと思慮が浅いのでは、などと突っ込みを入れてももう遅い。怒涛の進撃は始まっているのだ! やがて彼は自らの出自を知らされ、父の若かりし頃の物語を聞かされることになる。

 というところから長い長い長い回想シーンが始まり、ここからが超ド級の進撃。「ベンハー」「ブレイブハート」「グラディエイーター」などなどの戦争史劇を全部足してリアリティを無視した味付けを施したてんこ盛り戦場シーンが続く。面白ければ何でもいいってか! まあえっか。しかし蛮族が黒い肌をして目と歯をむき出して襲ってくるってそれはちょっと人種差別コードに抵触しないのかね。
 というわけで、まだまだ続くのである。(Blu-ray

BAAHUBALI: THE BEGINNING
138分、インド、2015
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ、原案:V・ヴィジャエーンドラ・プラサード、音楽:M・M・キーラヴァーニ
出演:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、タマンナー、アヌシュカ・シェッティ、ナーサル、サティヤラージ

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

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 な、長い。何しろ登場人物が多いから、そのエピソード処理だけでもずいぶん時間がかかるのはしょうがない。で、お話は結構面白かったから長いけど退屈はしなかった。もう二週間以上前に見たのでまたしても細部はすっかり忘れたけど、エリザベス・オルセンの陰のある悲しそうな瞳が印象深かった。
 で、それぞれのキャラクターのお話がどういうことになっているのか全然わからなくて、過去のエピソードはどうなっているんだ! 過去作全部おさらいしないとわからないのか?! そもそもこのアベンジャーズって第何話?! とパニックになっていたんだけど、劇場用パンフレットにはすべてちゃんと解説ががついているんですねー、なんという親切なつくり! 助かります。こういうパンフレットは買う値打ちがあるわ。 
 そして銀河一の悪役、殺戮者、独裁者、巨漢のサノスが涙を流すという痛切なシーンまで用意されている! この人、根っからの悪人とは言えないのかもしれないという疑問が観客の胸に沸々とわいてくるくるのである。そもそも宇宙の人口を半分にする力を持った石がなんのために存在するんでしょうね。それは神が作って生命体の最終兵器としてとっておいたものかもしれない。ということはそれを使うときには信じられないほどの犠牲を伴う代わりに、以後は平和な世界が待っている、というパンドラの箱みたいな(ちょっとちゃうか)、触れてはならない奥の手だったりするのかもしれない。サノスが私利私欲で戦っているわけではないところがけっこう深い話か。(5月に鑑賞)

AVENGERS: INFINITY WAR
150分、アメリカ、2018
監督:アンソニー・ルッソジョー・ルッソ、脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー、音楽:アラン・シルヴェストリ
出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・ヘムズワースマーク・ラファロクリス・エヴァンススカーレット・ヨハンソンドン・チードルベネディクト・カンバーバッチトム・ホランドチャドウィック・ボーズマンゾーイ・サルダナ、カレン・ギラン、トム・ヒドルストンポール・ベタニーエリザベス・オルセンアンソニー・マッキーグウィネス・パルトローベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンクリス・プラットウィリアム・ハートサミュエル・L・ジャクソン
声の出演:ヴィン・ディーゼルブラッドリー・クーパー、ケリー・コンドン

 

いつだってやめられる 7人の危ない教授たち

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 東京出張中に見た7作品の一つ。映画館で声をあげてこんなに笑ったのは久しぶりだよ。この続編を先に見たときには、前編を見なくてもだいたいわかるからえっか、と思ったが、やっぱり前作を見てないと面白み半減だわ! そうか、このパターンを踏襲するのね、とか、ここでこういう動きをするから次回作につながるギャグになるのか、とかいろいろ今回学んだことがあったので、ここは一挙三部作を上映してほしいもんです。今回見たのも特別上映だったみたいで、パンフレットも作成されていなかった。実に残念である。プレスシートを300円も出して買ってしまったよ、試写に行けばタダでもらえるのに!
 まあそれはともかく、今どきの研究者の悲惨な状況がよく描かれていて涙がちょちょぎれる話でした。で、そもそも「いつだってやめられる」の意味を取り違えていたわ。この作品でそのセリフを主人公が言うのには、「非合法すれすれのドラッグを製造販売する仕事なんて、いつだってやめられる」という意味だったのだ。
 この映画がイタリアで大ヒットしたのはかわいそうなインテリたちへの同情心ゆえではなく、インテリを嘲笑う人々が留飲を下げるために見に来ていたというような意見をネットで読んだが、そうなると製作者の意図と違う結果であり、悲しいことだ。でもこの映画の面白さはインテリ自虐ネタでもあるわけだし、その点では狙い通りと言えなくもない。
 というわけで、金儲けのために犯罪に走る失業研究者たちの悲惨な生活ぶりを見ながら笑える社会派コメディでありました。日本ではたぶん第三作が公開されるはずなので、そのときにはぜひ三部作一挙上映してほしい。

SMETTO QUANDO VOGLIO

105分、イタリア、2014

監督:シドニー・シビリア

出演:エドアルド・レオ、ヴァレリア・ソラリーノ、ヴァレリオ・アプレア、パオロ・カラブレージ、リベロ・デ・リエンツォ

0.5ミリ

 ある事件をきっかけに仕事と住居を失った若き介護ヘルパーが、次々と老人をたぶらかして押しかけヘルパーになって食いつなぐというブラックコメディ。 

 後半にいくほどダレてきて、特に津川雅彦じいさんの独白は認知症老人の特徴を出すために何度も同じセリフを繰り返させるのだが、これがしんどい。そこを狙った演出ということはわかるが、正面からのアップでこういうのを映画館で見たいかな? 語っている内容が「戦争なんてひどいもんだ」という反戦ものであるところが皮肉かもしれない。なんといっても”あの”津川だからねぇ。 

 しかし、前半はかなり面白かった。介護ヘルパーのさすらいの旅路、ならぬさすらいの老人ハンター。こういう題材は新鮮だし、主演の安藤サクラの自然体の演技がうますぎて舌を巻く。あののっぺりとした顔でアルカイックスマイルみたいな笑顔を見せられると、老人はつい心が緩むんだろうなあと説得力にあふれている。拝みたくなる顔といえばいいのか。 

 巧みに社会問題を練りこむ脚本もうまいし、伏線もあって最後はその回収にけっこう驚く。さすがに3時間は長いという気がするが、話がどう展開するのか先が読めないだけに飽きることはなかった。こういう快作もできるようになったのか、日本映画。しかし女の魅力は家事・介護、結局そこか。(U-NEXT)

196分、日本、2013

監督・脚本・原作:安藤桃子、エグゼクティブプロデューサー:奥田瑛二、音楽:TaQ

出演:安藤サクラ織本順吉木内みどり、土屋希望、井上竜夫東出昌大ベンガル角替和枝浅田美代子坂田利夫草笛光子柄本明津川雅彦

gifted/ギフテッド

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 また一人天才子役が現れた。前歯の抜けたなんともいえない愛らしい顔に、長い睫毛を震わせながらくちゃくちゃの顔で笑う、抱きしめたくなるようなマッケナちゃん! 天才子役が天才少女を演じる。これはもう地でそのまま天才という雰囲気が全身から蒸発しまくっている。
 天才少女のメアリーは7歳にして高等数学の難問を解いてしまうような驚異の才能を見せて周囲を驚かせる。実はメアリーの母がまた不世出の天才数学者だったのだが、赤ん坊のメアリーを残して自殺してしまったのだった。そしてメアリーは母の弟であるフランクの手で育てられる。フランクはメアリーをふつうの子どもとして育てようとしていたので、メアリーの才能に気づいた教師たちの勧めを断って彼女に英才教育を施すことを拒否する。ところがここに現れたのがおばあちゃんのイブリン。イブリンもまた数学者だったのだ。なんという一家だ、学者・天才の家系は幸せなのか不幸せなのか。
 フランクを演じたのはキャプテン・アメリカクリス・エヴァンス。まったく違う雰囲気で、とてもやさし気な憂いを帯びた瞳が魅力的。メアリーの担任教師とデキてしまってメアリーにばれる場面など、とてもユーモラスだ。メアリは子どもだけれど多くのことを見抜いている。でもやっぱり子どもだから詰めは甘い。そして、誰よりも愛を求めているのだ。
 訴訟社会のアメリカは親子といえども簡単に裁判を起こしてしまうのだから恐ろしい。メアリーの育て方をめぐって対立する祖母と叔父。その間にたってメアリーの幸せは誰が見つけるのだろう? 誰もがメアリーを愛し、メアリーを大切に思っているに違いないのだが、天才少女をどのように育てるのかは大いに見解が分かれてしまう。娘に死なれてもなお反省しない母親は、結局のところ自分の欲望と野望を娘に投影していただけなのだろう。娘亡き後は孫に希望を託す。
 いつだって、子どもには子どもの人生がある。本人が望まない未来を大人が押し付けることはできない。とはいえ、教育そのものがある意味押し付けなのだから、才能というのはやっぱり周囲が気づいて手を施さないといけないのではないか。いろいろ考えさせられる映画だった。でもそんなふうに理屈っぽい作品ではなく、マッケナちゃんのかわいらしさに微笑み癒される100分でした。(レンタルBlu-ray

GIFTED
101分、アメリカ、2017
監督:マーク・ウェブ、製作:カレン・ランダー、脚本:トム・フリン、音楽:ロブ・シモンセン
出演:クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン、ジェニー・スレイト、オクタヴィア・スペンサー

 

リュミエール!

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 映画の原型であるシネマトグラフを生み出したリュミエール兄弟が残した1422本の作品から108本を厳選して解説を加えたもの。これがまた面白いったら。こんなに古い、ほんと、120年も昔の映像を見て何が面白いのかと思われそうだが、解説も含めて極めて興味深い。ただし、うちのY太郎(27歳)にこの映画のことを教えたら、「そんなもん、大学の映画史の授業で繰り返し見せられたからもう飽きた」と言われてしまった。
 しかしこの映画は4Kデジタル修復されているため、いま撮ったと見まがうばかりの鮮明さだ。一見の価値あり。これを観ると、映画の本質が120年変わっていないことがよくわかる。すなわち、「誰も見たことがないものを見せる」「映画は驚き」「映画は娯楽」「映画はユーモア」というもの。フランスの各地の風景もそそられるし、わたしとしてはこんな面白いもの、見ないのは損としかいいようがない。
 世界で最初に撮られた映画は、工場の出口であった。一日の仕事を終えて工場から出てくる人々を写した。ただそれだけなのだが、当時の人にとっては目の玉が飛び出るような驚きであったろう。続いて劇場公開された、「駅に入ってくる汽車」に至っては大スペクタクルである。近づいてくる列車に恐れおののいて観客が座席から跳びのいて逃げ惑ったという伝説の、アレだ。それ以降に作られた数々の短編がみなストーリを持っているところが興味深い。当時のフィルムは50秒しか連続撮影できなかったので、50秒一話のオチをつけてあるということろがミソ。大阪人も真っ青の笑えるお話がいっぱいあるよ。 
 目の前で起きていることは一過性のものであり、再現不能な切実なものであったはずだ。それが映像として記録されるようになって以来、人々の「時間」に対する観念が変わった。それが映画の始まりだったのだ。わたしたちは、120年前のパリの繁華街を歩く今は亡き人々の姿を観ることができるし、その姿は永遠に焼き付けられ、固定される。何かしら哲学的な気分に襲われる映像体験だ。(レンタルDVD)

LUMIERE!
90分、フランス、2016
監督・脚本・ナレーション:ティエリー・フレモー
製作:ティエリー・フレモー、ベルトラン・タヴェルニエ

 

リップヴァンウィンクルの花嫁

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 黒木華の魅力がほぼすべて。よくぞ彼女を主役に据えたものだ、お見事。あ、すべてではない。残りの魅力はなんといっても怪しげな綾野剛。彼が演じる正体不明の安室という何でも屋、物腰柔らかな善人そうな詐欺師、彼が物語全体を不思議なムードに陥れている。
 いかにも岩井俊二らしい、夢を見ているような不思議な美しい光景が繰り広げられる。それがたとえ新妻が策略に陥れられる悲劇の物語であっても、そのようにはかなげで美しい。
 黒木華が演じる非常勤教師は「声が小さい」と生徒に嘲笑されるような、自信なさげな若い教師だ。こんな人、そもそも教師に向いていない。これほど根性も度胸も声の大きさもないなら、教師にならなければいい。しかし、そんな彼女を慕う「通信教育」の教え子がいる。そうか、こんなふうに静かにはかなげに話す相手とは安心できる子もいるんだ。確かにそうかもしれない。いつも声が大きくて明るくて自信たっぷりな人間ばかりだとそれはそれで疲れるよね。わたし自身は地声が大きいから、それが苦痛になる人もいるんだろうなぁとうっすらと想像してみる。
 さて、物語は。これはもうストーリーがあるのかないのかよくわからない話だ。わたしはまったく予備知識なしに見始めたものだから、話がどこに転がるのか全然わからなくて、「えええええ、そんな話なの」と驚いたり感動したり、とうとう最後には「ほんまかいな」と、そのフェイクぶりにあきれながらも感心してしまった。りりぃが登場するところからいきなりすごい展開になるので、ここは必見。そして、そのりりぃを受けて立つ綾野剛がやっぱり怪しい。こいつは怪しい。絶対怪しい。
 で、ストーリーは。て、そんなもの、書かないほうがいいんです。だって、次にまたこの映画を観たことを忘れてもう一度見るときのために書かないほうがいい。でも、見終わった瞬間に、「で?」と思ってしまった。いったい何を言いたかったんでしょう。一人の若い女性の成長物語? でも彼女、成長しているようには見えないよ。いろんな人に騙されたままだしね。(レンタルDVD)

180分、日本、2016
監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木華Cocco、地曵豪、和田聰宏、りりィ、綾野剛